相続コラム

2024/06/07 相続コラム

相続放棄について

 家族が亡くなった場合、遺産を相続するのは法律で認められた権利ですが、死亡した家族に借金があるとか、遺産分割協議に関わりたくないなどといった理由で遺産を相続したくないという方もいらっしゃるでしょう。

 ここでは、遺産を相続したくない場合にとり得る相続放棄の手続について解説します。

 相続放棄とは

 民法では、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(896条)とされていますので、被相続人と一定の関係にある人は、当然に遺産を相続することになります。

 しかし、そうすると、被相続人に借金がある場合のように、自分には何ら責任がないのに、突然不利益を受けるような事態が生じてしまいます。

 そこで、民法では、「相続放棄」をすることによって、このような不利益を回避することを認めています。

 相続放棄をすると、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

 したがって、被相続人の借金の返済をする必要はありませんし、逆にプラスの財産があった場合でも、その遺産を取得することはできません。

相続放棄の手続

 相続放棄の手続は、家庭裁判所に対して所定の書類を提出することによって行います。

 このことを「相続放棄の申述」といいます。

 民法では、「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」とされていて、家庭裁判所で手続を行うことが必要とされています。

 この点について、相続人同士の話し合いの中で、「自分は相続放棄をする」と言ったというようなことが見受けられますが、これは、「相続分の放棄」や遺産分割手続で自分は遺産を取得しないと宣言しているに過ぎず、法律が定めている「相続放棄」とは異なるので注意が必要です。

 この場合、被相続人の債権者からの請求を免れることはできませんので、そういった事態を回避したい場合は、家庭裁判所で確実に相続放棄をするようにしましょう。

 裁判所に提出する用紙は、家庭裁判所で受け取ることもできますし、裁判所のホームページでダウンロードすることもできます。

 裁判所に納める手数料は1件あたり800円ですので、これを「相続放棄申述書」に貼付します。

 添付書類として被相続人の住民票除票(又は戸籍の附票)のほか、戸籍謄本を提出することになりますが、これは被相続人との関係によって、提出すべき範囲が多少異なります。

相続放棄の期限

 相続放棄の申述は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」(民法915条1項)とされています。

 したがって、自分が相続人となることを知ってから(多くの場合、被相続人が死亡したことを知ったタイミングになるでしょう)3か月以内に、被相続人に借金があるかどうかなどを把握し、相続放棄をすべきか判断する必要があります。

 この3か月の期限のことを相続放棄の熟慮期間と呼んでいます。

 この熟慮期間は、「利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」(民法915条1項ただし書)とされていますので、絶対に3か月以内に行わなければならないわけではありませんが、期限の伸長が認められる保証はありませんので、3か月以内に行うべきであることに違いはありません。

 被相続人との関係にもよりますが、財産状況の把握をした上で書類を準備したりすることを考えると、3か月という期間はそれほど長いものではありません。

 被相続人に借金などの問題がありそうであれば、早めに相続放棄を検討していただいた方が良いでしょう(逆に、思わぬプラスの財産があって相続放棄の必要がないということもあり得ます)。

 何らかの事情があって上記の伸長手続を行わないままで3か月の熟慮期間が経過してしまった場合、起算点をずらすことができないかを検討することになります。

 相続放棄ができない場合

 被相続人が残した負債を回避しようと思えば、相続放棄を行う必要があるのですが、相続放棄ができないということもあります。

 それが「法定単純承認」を行った場合です。

 相続については、相続放棄をするか相続を承認するかを相続人が選択することができるのですが、相続人が一定の行為を行った場合、相続を承認すると明確に言わなくても、法律によって相続を承認したものとみなされてしまい、その結果、相続放棄ができなくなってしまいます。

 このことを法定単純承認といいます。

 どのような場合に法定単純承認にあたるかについては、民法921条で以下のように示されています。

 「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。」(1号)

 「相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。」(2号)

 「相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。」(3号)

 このうち、2号については既に述べた相続放棄の期限に間に合わなかった場合のことですので説明を割愛します。

 現実的に問題となるのは1号と3号です。

 これらは要するに、相続放棄をしようとする者が、遺産を処分するようなことは許されないということです。

 典型例は、被相続人の預金を引き出して使ってしまったような場合です。

 このような行為をすると、相続放棄の申述が認められなかったり、相続放棄を一度行っていても、その効果が認められない可能性が出てきます。

 ただし、引き出したお金を葬儀費用などに使用した場合には、相続放棄が認められる場合もあります(絶対に認められるわけではないので、確実に相続放棄を行いたいのであれば、預貯金などには触れない方がよいでしょう)。

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