相続コラム

2023/08/02 相続コラム

特別受益について

特別受益とは

 遺産分割協議が上手くいかないケースとして、一部の相続人が、被相続人から生前に多額の贈与を受けていて、不公平な状態となっている場合があります。

 例えば、被相続人である父親が亡くなり、妻とその子2名(長男・長女)が相続人となった場合に、死亡時に残されていた預貯金が6000万円であったというケースを考えてみます。

 これを法定相続分どおりに分けようとすると、妻が3000万円、長男と長女がそれぞれ1500万円ずつを受け取ることになります。

 このとき、妻と長女には生前に特に贈与はなかったのに対し、長男には父親が亡くなる前に2000万円が贈与されていたという事実があったとすると、長男は、生前の贈与も含めると合計で3500万円を受け取ることになり、平等であるはずの長女との間で不公平が生じています。

 長女からすると、「長男は、生前に多額のお金をもらっていたのだから、その分自分が多くもらうべき」と考えるのも理解できるところです。

 遺産分割協議では、各相続人が納得していれば、その分け方は自由ですので、話し合いによって生前の贈与のことを考慮して遺産の配分を決めることができます。しかし、実際には円滑に話し合いが進まないということも少なくありません。

 このような場合に、法律の定めにしたがって調整を図るのが「特別受益」です。

 「特別受益」とは、遺産の前渡しといえるような贈与のことをいい、上の例で長男が生前に受け取っていた贈与を遺産に「持ち戻し」、加算された金額を元に相続分を計算することになります(民法903条)。

計算方法

 具体的には、上の例では、分配可能な現存する遺産は6000万円ですが、長男が受け取っていた贈与2000万円は遺産の前渡しとみなして、これを加算した8000万円を元に各人が取得する額が公平になるように計算します。

 すると、妻は8000万円×1/2=4000万円、長男と長女はそれぞれ8000万円×1/2×1/2=2000万円ずつとなりますが、長男はすでに2000万円を受け取っていますので、2000万円-2000万円=0円となり、現存する遺産から受け取ることのできるものはないということになります。

 結局、預貯金6000万円を妻4000万円、長女2000万円で分けることになります。このように考えても、長男は生前に2000万円を受け取っていますから、トータルで見ると法定相続分どおりに公平に分けることができたことになります。

 なお、持ち戻し計算を行った結果、計算された持分よりも多くの額を特別受益として受け取っていたというような場合、超過分を他の相続人に返還する必要まではありません。この場合、遺留分の侵害が問題となることがあります。

 このほか、遺贈(遺言による財産の無償処分)があった場合にも特別受益となりえますが、遺贈は生前に受け取っていたものではなく、相続財産の中から受け取るものですので、現存する遺産に加算するといった処理は必要はありません。

特別受益の対象となる贈与

 民法903条は、特別受益の対象となる贈与について、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与」としており、何らかの贈与があれば全て特別受益として持ち戻し計算の対象となるわけではありません。

 「生計の資本として」といえるためには、生計の基礎として役立つようなある程度高額の贈与である必要があります。

 また、扶養義務の範囲内で行われた援助についても、原則として特別受益には当たらないと解されています。

 したがって、例えば、小遣いや扶養の範囲内の生活費の援助などは基本的に特別受益にはあたらないと考えられます。

持ち戻しの免除

 特別受益にあたるような贈与があったとしても、被相続人が持ち戻しの免除の意思表示をしていた場合、持ち戻しをしなくてもよくなります(民法903条3項)。

 この意思表示は、明示的に行った場合のほか、黙示的に行われた場合も含むと解されていますので、贈与の内容や贈与が行われた経緯等を吟味する必要があります。

期間制限

 特別受益を考慮する場合、民法の改正により原則として相続開始から10年以内(改正民法の施行前の相続の場合、施行日から5年を経過するまでのいずれか遅いときまで)に遺産分割を行う必要がありますので(民法904条の3)、特別受益の主張を行いたい場合は、早めに遺産分割協議を進めるようにしましょう。

© 福留法律事務所 相続専門サイト