2024/06/21 相続コラム
葬儀費用は誰が負担するのか
人が亡くなった場合、故人を弔う葬儀を行うことになりますが、遺産分割協議の中で、この葬儀に関する費用をめぐって相続人同士で争いになることがあります。
ここでは、なぜ葬儀費用が争いの対象となるのか、法律的にはどのように考えられているのかについて解説します。
なぜ葬儀費用の負担が問題となるのか
葬儀費用をめぐって問題となるのは、相続人の一部が葬儀費用の支払いに遺産を使用した場合が典型例です。
その背景には以下のような事情があります。
被相続人が高齢であったり、病気となっていたような場合、家族が預貯金を管理して必要なお金を引き出していたということが少なくありません。
預貯金の管理を任される場合、キャッシュカードや預金通帳、印鑑もあわせて預けて暗証番号も知らされていることが多いです。
そして、被相続人が亡くなったからといって、その事実を金融機関が当然に知るわけではありませんので、預貯金の管理を任されていた人は、預貯金を引き出そうと思えば引き出せる状態にあります。
そのような中で、この預貯金の管理を任されていた人が葬儀を執り行い、その費用を被相続人の預貯金から支払うということがあるのです。
このような状況であっても、相続人間の関係が良好であれば、葬儀自体はやらなければならないものですので、その支払いに遺産を用いたとしても、他の相続人も問題視することはなく、それほど争いにはならないでしょう。
また、葬儀代の支払いについて、事前に他の相続人にも話しておけば後でトラブルになる可能性は低いと考えられます。
しかし、相続人間の関係が悪く、連絡がなかった等の理由で葬儀に出席できなかった遺族がいる、葬儀の費用が不相当に大きい、預貯金の管理をめぐって争いがある、といった事情がある場合、後で葬儀費用の支払いをめぐって争いが生じることがあります。
例えば、「自分は出席していないから遺産から葬儀代を支払うことは認めない」、「無断で預貯金を引出したことが許せない」、「葬儀代が高すぎるのでそんな支払いは認められない」といった形です。
法律的にはどう考えられるのか
葬儀費用を誰が負担すべきかについて法律の定めはありませんので、その地方の慣習や条理によって決めるべきものとされています。
実際の実務ではどのように考えられているかというと、葬儀費用から支払ってもいいという見解もあれば、喪主(葬儀主宰者)が負担すべきという見解もあります。
最近の東京地裁の裁判例を見ると、「葬儀関連費用については、相続人全員の同意がない限り、相続財産からこれを支出することはできず、基本的に喪主が負担すべきである」(東京地裁令和4年6月30日判決)などとされています。
別の裁判では、「葬儀費用は、相続人全員の合意により支払をした場合、被相続人が生前に葬儀に関する契約を締結していた場合、被相続人が被告に対して一定額を葬儀費用にあてるように委任していた場合を除いて、その葬儀を執り行った喪主が負担すべきものと解される。」ともされています(東京地裁令和4年3月2日判決)。
このように、最近では喪主が葬儀費用を負担すべきというのが基本的な考え方で、葬儀費用を遺産から支払うことができるのは、相続人全員が同意しているか、被相続人が生前に遺産から支払うことを認めていたような場合であると考えた方が良いでしょう。
そうすると、先の例のように、相続人同士の関係が悪化していて、他の相続人の同意を得ずに遺産から葬儀費用を支払ってしまった喪主は、支払った葬儀費用を返還しなければならなくなってしまいます。
解決方法
このように、葬儀費用を喪主が自己判断で遺産から支出してしまうと、後で他の相続人に対して返還をしなければならないリスクがあります。
感覚的には、葬儀は誰かが執り行わなければなりませんし、喪主以外の人が葬儀に出席しながら全く費用の負担をしないというのも筋が違うような気もします。
そのため、遺産分割協議で揉めていても、葬儀費用は遺産から出してもいいと言うひとは少なくありません。相続人の間でそのような合意をすることは自由です。
しかし、そもそも、遺産である預貯金は、被相続人の死後、勝手に相続人の1人が引出ていいものではありません。
葬儀費用を遺産から支払おうと思うのであれば、まずは相続人全員の了承を得て行うようにしましょう。