相続コラム

2023/08/03 相続コラム

預金の使い込みの問題

問題点

 被相続人が死亡し、残された遺産を各相続人で分配しようとする段階で、被相続人の預金の残高を確認したところ、想定していた以上にお金が残っていないとか、場合によってはほとんど残高がゼロに近いというようなことがあります。

 亡くなった被相続人が自分で使ったのであればもちろん問題ありませんが、相続人の一人が被相続人に代わって預貯金の管理をしていて、その使い道がよく分からないということがあります。

 その結果、預金を引き出していた相続人とその他の相続人との間で、「このお金は何に使ったんだ」という形で争いになることが少なくありません。

 このような場合、そのまま遺産を分けようと思っても、公平とはいえませんので、何らかの調整が必要となってきます。

 ところが、相続人の1人が預金を管理していた期間が長く、使い込まれた額が大きくなってくると、使い込んでいた側がこのことを認めないということが起こってきます。

 そうすると、上手く調整ができず、いつまで経っても遺産分割が完了しないという事態に陥ります。

 これが被相続人の預金の使い込みに関する問題です。

問題の背景

 このようなことが問題になる背景として、被相続人が高齢であったり病気となって自分で適切に財産を管理することができなくなった結果、他人に財産の管理を任せることになるということがあります。

 例えば、入院が長期化すると医療費の額も大きくなりますが、その支払いを自分で行うことが難しかったり、家の事や身の回りのことを家族に任せるということもありますので、銀行の通帳やキャッシュカードを子供などの家族に預けるということがあります。

 また、認知症などで判断能力が低下してくると、本人に財産の管理を任せることにリスクが生じてきますので、やはり家族が財産の管理をするということもあります。

 このような背景を元に、被相続人に代わって入院費や施設利用料、その他の被相続人のために必要となる生活費を家族が被相続人の預金を使って支払っていたとしても問題はありません。
 しかし、そのように問題がない支払いをしていたとしても、支払いの度に領収証を保管し、帳簿をつけているとは限りません。そうなると、実際に必要となる金額が分からない他の相続人が、金額に疑念をもって争いが生じる可能性があります。

 また、引出しを行った家族が、自分の財産とは区別して引き出された現金を保管していれば良いのですが、これを一緒くたに管理することで引き出されたお金を使ってしまうことがあります。

 さらに、場合によっては、管理を任されていた者が自分のために勝手に使ってしまうこともあり得ます。

 他に、被相続人が、自分のために動いてくれている家族のために、贈与をするケースもあります。

 そのため、他の家族が後になって被相続人の口座を見たときに、思った以上にお金が減っていると、他の家族からしてみるとなぜそのようにお金が減っているのか分からないので、結果として相続人同士で激しく対立してしまうことがあります。

基本的な考え方

 まず、医療費や介護施設の利用料など、被相続人のために使われたことが明らかなものについては何ら問題がないので、これがいくらなのかを確認する必要があります。領収証などがあれば良いですが、ない場合でも、ある程度出費を概算で出すことができるものもあると思います。

 それでも支出額の説明がつかないような場合、預金を引き出した人に説明をしてもらいます。

 これが「被相続人から生前にもらったものだ」というのであれば、特別受益として遺産分割の際に考慮することになるでしょう。

 問題は、引き出したお金は被相続人に渡したとか、何のために使われたのか分からないといった回答をして、そのことが合理的でない思われる場合です。

 被相続人の了承を得ずに勝手に自分のために引き出して使っていた場合、被相続人は使い込みをした者に対して不法行為に基づく損害賠償請求または不当利得返還請求によって金銭の支払いを求めることができます(この請求は、被相続人の死後は、各相続人が分割して承継することになります。)。

 被相続人から贈与ということを前提に遺産分割協議の中で処理することができなければ、他の相続人は、預金を引き出した者に対して上記損害賠償請求または不当利得返還請求に基づいて引き出したお金の返還を求めることになり、話し合いで解決ができなければ、民事訴訟を提起することもあり得ます。

問題を避けるために

 このような預貯金の使い込みで揉めたくない場合は、被相続人の生前から、預貯金を管理していることを他の家族に伝えた上で、預貯金の使い道について領収証を保管する、帳簿をつけておくなどして証拠を残しておいた方がよいでしょう。

 そのようなことを行わずに、被相続人の死亡後に他の家族との間で争いになってしまった場合、使い道について丁寧に説明して、他の家族の理解が得られるように努めましょう。この説明を怠った場合、他の家族との対立が深まり、話し合いでの解決が困難になる恐れがあります。

 預貯金の使い込みについて話し合いで解決が見込めなくなった場合には、弁護士に相談されることをおすすめします。

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