相続コラム

2023/09/28 相続コラム

遺言書の基礎知識

遺言書とは

 遺言とは、自分の死後に自分の財産をどう処分するのか、身分関係をどうするのか等の法律関係について定める意思表示のことをいいます。契約のように相手方が意思表示を受領する必要はない単独行為とされています。

 この遺言が記された文書が遺言書です。

 遺言書の種類

自筆証書遺言

 自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を自分で書き、押印をして作成するものです。

 民法改正により、遺言書に添付する財産目録に関しては手書きでなくてもよくなりましたが、各ページに署名・押印が必要です。

 また、令和2710日より、自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる制度が始まりましたが、これを利用すれば、遺言書を紛失したり、遺言書の内容が第三者に書き換えられてしまう心配がなくなります。

公正証書遺言

 公正証書遺言は、遺言の内容を公証役場の公証人に伝え、これに基づいて公証人が公正証書として作成する遺言のことです。

 2名以上の証人の立会いが必要となります。

 専門家である公証人が内容をチェックして作成するものですので、内容や方式に不備があって無効となる可能性が低く、偽造の心配もしなくて済みます。

秘密証書遺言

 秘密証書遺言は、遺言書を作成して封をし、遺言書に使ったのと同じ印を使って封印したものに、公証人と証人の関与の下で、遺言書が存在することを明らかにする手続です。遺言書の内容は秘密にしておくことができます。

 秘密証書遺言は、公証人による内容のチェックまでは行われないため、方式に不備があるために無効となる可能性があります。

 そのため、あまり利用されていません。

その他

 死亡の危急時などに特別の方式による遺言が認められることがあります。

 

検認手続

検認手続の概要

 公正証書遺言や法務局で保管されていた自筆証書遺言を除き、遺言書を開封したり遺言書にしたがって財産を分けようとする場合、家庭裁判所で「検認」と呼ばれる手続を行う必要があります。

 検認手続を行うにあたっては、申立を行った者以外の相続人に対して家庭裁判所から手続の通知が行われ、通知された相続人も出席できる場合は出席します。

 当日は、相続人の立会いの下で裁判所が遺言書を開封し、中身を確認し、封筒や中身を写真で撮影した上、立ち会った相続人に対して保管状況や筆跡・印影に関する審問を行います。

 検認手続が終わると、裁判所で検認期日調書が作成されるほか、検認をしたことの証明書の発行をしてもらうことができます。

趣旨

 検認手続を行う趣旨は、できるだけ早い段階で遺言書の現状を確認して、その結果を保存することにより、遺言書の偽造・変造を防ぐということにあります。

注意点

 検認手続を経たからといって遺言書が有効になるわけではありませんし、あくまでも検認手続の後に偽造・変造されるのを防ぐためのものなので、遺言書が検認手続よりも前に偽造されている可能性も否定はできません。

 したがって、検認手続が済んでいても、一部の相続人から遺言書が偽造ではないかといった主張がされることがあります。

 ただ、検認手続を経ずに遺言書を開封したり遺言を執行したりすると、5万円以下の過料の制裁があるほか、遺言書にしたがった不動産登記の手続などが進められないという問題ありますので、遺言書を発見したら必ず検認手続を行うようにしましょう。

 遺言書が無効となるケース

遺言能力がない

 民法961条では、15歳に達した者は遺言をすることができるとされていますが、遺言書作成時点で「意思能力」がなければ遺言書は無効となります。

 遺言作成時に必要となる意思能力について判例は、「遺言事項を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力」などとしています(東京地判H16.7.7)。

 実際に遺言書を作成するのは高齢者が多く、認知症などを患っていることも少なくないため、特に自分にとって不利な内容の遺言書が作成されてしまった相続人から、「遺言者は認知症で遺言書を書ける状態ではなかったから遺言書は無効だ」などとして争われることが多いです。

 このような場合、遺言書が作成されたとされる時期の遺言者の心身の状態や、健常なときに言動がどのようなものであったのかが重要なポイントとなり、いずれも裏付けとなる資料が必要となります。

 なお、公正証書遺言の場合でも遺言能力がなかったとして無効となることがないわけではありません。

遺言書が偽造された場合

 遺言書が偽造であれば、その内容が無効となることは言うまでもありません。さらに、偽造したのが相続人であった場合、相続人の資格も失うことになります(民法8915号)。

 実際の現場では、偽造されたと主張する側から、筆跡鑑定の鑑定書が提出されることがありますが、裁判実務上は必ずしも有効な証拠とはいえません。

遺言書が方式違反

 遺言書は、作成方法が法律で厳格に定められていますので、そのルールに違反している場合は無効となります(民法960条)。

 押印や日付の記載がないといったものが典型例です。

 また、口頭で述べたに過ぎないものも、遺言としては効力がありません。

遺言書の訂正が方式違反

 遺言書に決まった方式があることを知っている人は少なくないと思いますが、遺言書の内容を訂正する場合にも民法でルールが定められていることを知っている人はあまり多くありません。

 通常の感覚だと、訂正箇所に二重線を引いて訂正印を押しておけばよいような気がするのですが、遺言書の訂正の場合はそれでは不十分です。

 民法のルールでは、遺言者が訂正箇所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じないとされています(民法9682項)。

 これは秘密証書遺言の場合でも変わりはありませんので、注意が必要です(9702項)。

内容の問題

 遺言書の内容の問題で、書かれている内容が何を指しているのか一義的に定まらず、どう解釈していいのか分からないような場合、該当箇所が無効となる可能性があります。

遺留分が問題となるケース

 遺言書で誰にどれだけ財産を残すかは自由ですが、特定の相続人の遺留分を侵害するような遺言書が残された場合、その相続人が遺留分侵害額請求を行う可能性があります。

© 福留法律事務所 相続専門サイト