2024/06/11 相続コラム
相続と生命保険金
はじめに
一般的に、自分が死んだ後に残された家族のために生命保険に加入し、死亡保険金の受取人を家族の誰かにすることは少なくないと思います。配偶者や子供を受取人とすることが多いでしょう。
このような生命保険に加入しておくことで、一家の大黒柱だった人がなくなった場合でも、残された家族が金銭的に困窮しないようにすることができます。
しかし、特に子供の中の1人を死亡保険金の受取人として、他の兄弟は死亡保険金を受け取ることができないような場合、受け取れなかった相続人から、「お前は生命保険金を受け取っているのだから、預貯金は取得させない」といった主張が出されることがあります。
あるいは、妻又は夫が受取人として指定されている場合でも、親子関係が悪化しているような場合、子供との間で同様の問題が出ることがあります。
経済的な観点から見ると、受け取る額に明確な差が出てくることになりますので、不公平感を考えるとそこまでおかしな主張でもないように思えますが、法律的にはどう考えられるのでしょうか。
ここでは生命保険金の遺産相続における位置づけについて解説します。
保険金は相続財産か
まず、生命保険金(正確には、生命保険の保険会社に対する保険金請求権)が、遺産にあたるのかという問題があります。
遺産にあたるとすれば、特別受益や遺留分などの問題が生じることになり、他の財産の分け方に影響してきます。
この点について、判例は、生命保険金の保険金請求権は、受取人の固有の権利であって被相続人から承継取得するものではなく、「遺産ではない」としています(最高裁昭和40年2月2日判決)。
生命保険金が遺留分減殺の対象となるか
判例は、保険金の受取人を変更する行為について、遺留分減殺の対象とはならないとしています(最高裁は平成14年11月5日判決)。
その理由として、前記のとおり、生命保険金の保険金請求権が遺産ではないこと、保険契約者である被相続人が払い込んだ保険料と等価の関係に立つものでものでもなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないので、実質的に見ても被相続人の財産に属していたものとはいえないことを挙げています。
生命保険金が特別受益の対象となるか
生命保険金を受領したことが特別受益にあたるかどうかについては、遺留分減殺のときと同様のことがいえますので、原則として否定されることになります。
ただし、特別受益に該当するかどうかを判断するにあたっては、相続人間の公平性が損なわれていないかという観点から検討する必要がありますので、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、特別受益に準じて持ち戻しの対象となることがあり得ます(平成16年10月29日判決)。
この特別の事情があるかどうかの判断では、保険金の額、保険金の額が遺産総額に占める割合の他、被相続人と各相続人との生前の関係等の様々な事情が考慮されるとされています。
相続税との関係
このように、生命保険金は法律上の遺産には該当しませんが、被相続人が保険料を負担していた場合、相続税の関係では「みなし相続財産」として、相続税の計算の基礎となる遺産の額に含まれることになります。
ただし、「500万円×法定相続人の数」が非課税限度額があります。